小説「味噌汁の味」(32)

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「おじいちゃん、心配しないで。また遊びに来るからさ」恵美子の言葉に、ウソはない。
「ほうかね。じいちゃんに会いに来てくれるかね」
「うん、もちろん。ね?」
「ん、うん、もちろん」メシに夢中になっていた浩輔が、いきなり話を振られて慌てて応える。
「浩輔は、じいちゃんより、メシの方がいいか」オヤジは腹の底から笑いながら、浩輔をぱん、ぱん、と叩いてみる。
「そんなこと、ないよ」浩輔はオヤジに叩かれて、喉にメシが詰まりかけたのか、思い切りむせている。「今度はいつ、名古屋に来れるのかな」
「そうだなあ」話の矛先がオレに振られて、オレも少し慌ててしまう。「今度は夏休みにでも、来ようか」
「そうか、夏休みか。じゃあそれまで、長生きするかな」
「そんなこと言わずに、もっと長生きして下さいよ」オレも笑いながら応えてはいたが、かなり本気で言っていた。
「これ、どうかな」聡美はさいばしの先でねばる、例の味噌ソースをオレの方に差し出してきた。
「うん、これはいける」オレは正直に応えた。ほんとに、うまかったのである。
「ほんとに? よかったあ」聡美はさらに、嬉しそうに言った。
「オレにも食べさせてよ」「あたしも」浩輔と聡美も、台所に立つ聡美の隣りに立ってせがんでいる。「おいしい」「ほんとだ」
 今回の家族旅行の目的の一つが、これで達成できた。台所に並ぶ聡美と浩輔と恵美子を眺めながら、そう思った。
 勝手口では、例の猫が味噌汁にごはんを混ぜた、「猫まんま」をうまそうに食べていた。これもきっと、聡美がつくった味噌汁に違いない。(33へ続く)

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