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【介護日記】(6)介護サービスを聞きにいく

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ゆでたまごのすけでございます。

母親の介護保険、認定がおりました。「要介護1」でございます。
「要介護1」というからには、2や3もあったりするわけでございまして、
さらには「要支援」の1、2というのもあるのでございます。
簡単に言ってしまうと、「要支援」はフルで介護サービスを受けるほど
ひどい状態ではない、という判断でございまして、
「要介護」というのはフルでサービスを受けた方がいい状態、
ということでございます。
ついでにいうと、相談窓口が「要支援」と「要介護」とでは異なりまして、
「要介護」は民間の介護支援センター、「要支援」は行政のそういう窓口、
というような感じで違いがあるようなのでございます。
(すいません、正しく表記できませんで)

そんなわけで、とりあえず民間の介護支援センターに行って参ったのでございます。
最近話題のコムスンみたいなチェーンのところではないところにしよう、
というのは正直な気持ちでございました。
まあたいがい、チェーンでやってるところってのは
マニュアルで作業させられているだろうし、
結局利益優先の企業体質だったりするところがまともな介護サービスなんて
できるわけがない、と思ってしまうからでございます。

私の自宅から歩いていけるような近いところに、
在宅介護サービスを提供している民間の拠点がございます。
なんかいわゆるそういうところなんだ、というのは外見からはわからないような、
まあ看板が出ているからそうなのかな、という感じのところでございました。
でも地元でそういう看板を掲げて、サービスを提供しているからには、
逃げも隠れもしないで責任もってやっているところなんだろうな、
というのは何となく思っていたので、飛び込みで入ってみた次第です。

そこには、社長さんがいらっしゃいました。元・寿司職人だそうです。
テイクアウトの寿司を握るお店を、同じ場所でやっていたのだとか。
まあ寿司屋というのも、厳しい商売だということもあったのでしょう。
いわゆる転業ですね。儲かる商売、という意識はあったのでしょうが、
始めてみると、どうしてどうして。奉仕の気持ちがなきゃできない、
ということを痛感したのだとおっしゃいます。

なんか、この人なら、信用できそう。そう思いました。
イヤだったら、すぐやめるでしょうしね。
それを続けてやっていらっしゃるわけですから、
きっとこの介護サービスという商売に、思いがこもっているのだろうなと…

小説「味噌汁の味」(33)

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「ごちそうさま」揃って大きな声を出して勢いよく立ち上がったのは、浩輔と恵美子だ。東京で暮らしている時には、聞いたこともないような元気さに、オレは驚いてしまった。
「出かける準備、しなさいよ」聡美は二人に、優しく声をかける。「九時には、出かけるからね」
「はあい」二人の姿はすでに食卓にはなく、声がしたのはゆうべ二人が寝かせてもらった部屋の方からだった。
「裕輔」箸を止めて、オヤジは重々しくオレに声をかける。「朝からする話じゃないかもしれんがな」
「何です」
「わしが死んだら、この家、おまえにやろうと思っとるんだ」
 あまりに急な話に、オレはメシを喉に詰まらせそうになった。
「お父様、そんな突然」台所に向かっていた聡美も、驚いて振り返った。
「いや、その方がいいて」オヤジはうなづきながら、言う。「なあ」
「実はな、あんたらが来る前に、そういう話をしとったんだわ」オフクロも、オレと聡美の顔を交互に見比べながら語り始めた。「お父さんも、わたしも、そんなに先は長くないでね」
「いや、ちょっと待って下さいよ」お茶を飲んでようやく落ち着いたオレが言う。「いきなり僕たちに、と言われても、兄弟もいるじゃないですか」
「まあ、そうなんだが」そう言ってオヤジは、オレの方をきっ、と睨みつけるように振り返った。「あんたは、長男だでね」
「そんな、長男だからって」
「あんたの兄弟とは、みんなすっかり没交渉だわ。独立していったのはいいが、何の連絡もよこさへん」オヤジの目は、寂しさを漂わせてきた。「会いに来てくれたのは、あんたらがほんと久しぶりだったんだわ」
「でも、弟や妹とも話し合わないと」オレの頭には、久方会っていない兄弟の顔が、当時のまま浮かんでくる。
「確かにそうだけども、わしの気持ちは、おまえらに譲りたい、ということだわ」オヤジの意志は、固いようだ。「話し合いは、してくれて構わんよ。だけども、わしの気持ちは尊重してくれや」
「ええ、まあ、はい」帰りがけに、えらく大きな宿題を与えられてしまった。オレは正直、頭を抱えたい気分だった。(34へ続く)

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【私の音楽ライブラリー/第十四回】DEEP PURPLE/Live at the Olympia '96

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ゆでたまごのすけでございます。
やっぱり協調と理解って、
大切なことだと
思うわけでございます。
ジョン・レノンではありませんが、
そうすれば戦争なんて
なくなるんじゃないか、と。

そんなわけで、DEEP PURPLEの「Live at the Olympia '96」でございます。
ライブ盤でございます。やっぱり「生」はいいのでございます。

1. Fireball
2. Maybe I'm a Leo
3. Ted the Mechanic
4. Pictures of Home
5. Black Night
6. Cascades: I'm Not Your Lover
7. Sometimes I Feel Like Screaming
8. Woman from Tokyo
9. No One Came
10. Purpendicular Waltz
11. Rosa's Cantina
12. Smoke on the Water
13. When a Blind Man Cries
14. Speed King
15. Perfect Strangers
16. Hey Cisco
17. Highway Star

DEEP PURPLEからRitchieがいなくなり、
Steve Morseというギタリストが加入してから最初のライブ盤でございます。
しかしこれがですよ。再結成後、Ritchieがいた頃に発表されたライブ盤が
2枚あるわけでございますが、この2枚より遥かにできがよいのでございます。

まあDEEP PURPLEのライブ盤と言えば「Live in Japan」というのが
孤高の存在ではございますが、この頃は5人のみで出すどでかいサウンド、
というのが強い印象になっているわけでございまして、
しかし当然ながらそのライブから20数年も経過しているわけでございますから、
同じことをまたやれるかっていったらそりゃ無理だろ、と。
この作品は、あの伝説となったライブから20数年を経過し、
その当時のメンバーのうち4人が残っている状態の中で1996年にできる
最高のパフォーマンスはどんなものか、というのを追求した結果できあがったもの、
という感じがするアルバムなのでございます。

Steve Morseという人は、偉大なるRitchieの後任なのであります。
それはつまり、そう言う期待をされる、というこ…

【雑感】ウソも方便はどこへ行った

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ゆでたまごのすけでございます。
ミートホープ社、大騒ぎでございますね。

偽装続きの日本で、またもや明るみに出た偽装。

伊丹十三監督の「スーパーの女」が制作された時代に、
肉を偽って販売するというのが明るみになって、
大騒ぎになったわけでございますが、
まだそんなことやってるのがいるんか、
というのが正直な感想でございます。

しかし、私の商売も言わば「偽装」だと思うのでございます。
広告屋なんてのは、誤解されるのを承知で申し上げるなら、
一種の偽装屋だと思うわけでございます。ペテン師ではないかと。

だけど、古くから「ウソも方便」という言葉もあるわけでして。
多くの人が喜ぶウソなら、それでいいのではないかと思うのでございます。

問題は、多くの人が迷惑をこうむる、あるいは命に関わるウソでございまして。
そういうことを平気でやってしまう人たちが後を絶たない日本って国は、
いいウソか悪いウソかも判断できなくなってしまうほどに、
情緒がなくなってしまっているのだなあ、と悲しくなってしまうのでございます。

もっと、賢くなりましょうよ。
自戒の念も込めて、そう思います。

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【私の音楽ライブラリー/第十三回】DEEP PURPLE/Purpendicular

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ゆでたまごのすけでございます。
これまでDEEP PURPLEの作品群を
紹介してきたわけでございますが、
ここで突然時代が飛ぶのでございます。

「Purpendicular」
こいつが発売された時には
ぶっちゃけ、驚きました。

1. Ted the Mechanic
2. Loosen My Strings
3. Soon Forgotten
4. Sometimes I Feel Like Screaming
5. Cascades: I'm Not Your Lover
6. Aviator
7. Rosa's Cantina
8. Castle Full of Rascals
9. Touch Away
10. Hey Cisco
11. Somebody Stole My Guitar
12. Purpendicular Waltz


何に驚いたって、何しろ、Ritchieがいないんです。
DEEP PURPLEの両翼の片方がいない。
まあ、もちろん第四期にはいない時期も
あったのですが、その作品を聞くと、
やっぱRitchieがいないと、と思ったものです。

批判を受けるとわかっていながらあえて言うなら、

これはRitchieなしでもありだ!

と思わせられたのでございます。

もっと言えば、これは全く異なるDEEP PURPLEだと。

Ian Gillan(Vo.)
Steve Morse(G.)
Roger Glover(B.)
Jon Lord(Key.)
Ian Paice(Dr.)

の5人がつくった、DEEP PURPLEだと。

1996年の発売と言いますから、
それでも今から10年以上前。。
今ではJonもいなくなってしまっているようで。
何と言うか、時が過ぎれば朽ちていく、
ということなんでしょうか。ああ無常。

しかし、1996年当時でもすでに私は、
もう今の時代の音楽ってつまんない、
なんて思っていた中だったのです。
そんな中、こんな作品に出会えて、

まだ捨てたもんじゃないぜ、70年代のRock'n'Roll Heroは!

と思えて、元気づけられたわけでございます。
とはいえ、私は70年生まれでございまして、
70年代Rockのリアルタイム世代ではないんでございますが。。

それでも、心から「ありがとう」と伝えたい一枚でございます。

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小説「味噌汁の味」(32)

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「おじいちゃん、心配しないで。また遊びに来るからさ」恵美子の言葉に、ウソはない。
「ほうかね。じいちゃんに会いに来てくれるかね」
「うん、もちろん。ね?」
「ん、うん、もちろん」メシに夢中になっていた浩輔が、いきなり話を振られて慌てて応える。
「浩輔は、じいちゃんより、メシの方がいいか」オヤジは腹の底から笑いながら、浩輔をぱん、ぱん、と叩いてみる。
「そんなこと、ないよ」浩輔はオヤジに叩かれて、喉にメシが詰まりかけたのか、思い切りむせている。「今度はいつ、名古屋に来れるのかな」
「そうだなあ」話の矛先がオレに振られて、オレも少し慌ててしまう。「今度は夏休みにでも、来ようか」
「そうか、夏休みか。じゃあそれまで、長生きするかな」
「そんなこと言わずに、もっと長生きして下さいよ」オレも笑いながら応えてはいたが、かなり本気で言っていた。
「これ、どうかな」聡美はさいばしの先でねばる、例の味噌ソースをオレの方に差し出してきた。
「うん、これはいける」オレは正直に応えた。ほんとに、うまかったのである。
「ほんとに? よかったあ」聡美はさらに、嬉しそうに言った。
「オレにも食べさせてよ」「あたしも」浩輔と聡美も、台所に立つ聡美の隣りに立ってせがんでいる。「おいしい」「ほんとだ」
 今回の家族旅行の目的の一つが、これで達成できた。台所に並ぶ聡美と浩輔と恵美子を眺めながら、そう思った。
 勝手口では、例の猫が味噌汁にごはんを混ぜた、「猫まんま」をうまそうに食べていた。これもきっと、聡美がつくった味噌汁に違いない。(33へ続く)

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【雑感】マニュアルかよ!

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ゆでたまごのすけでございます。
渋谷の温泉施設「シエスパ」で爆発事故がありました。
お亡くなりになった方のご冥福を、
心から祈らずにはいられません。

それにしても。

社長の記者会見は、どこかで見たような印象が強くて。
耐震偽装のホテルや、浦和のお店で大火災を起こしたディスカウントストアや、
そういったところの謝罪会見と、ほぼ同じだったような気がいたします。

最近は企業のリスクマネジメント(危機管理)をコンサルする会社、
なんてのもあるようですが、そういうところが用意するマニュアルでも
あるんでしょうかね。何だか、見ていていらっとします。

マニュアルに沿っていけば問題ない。
それは確かに、安心感を生み出すものでもあります。
しかしそれは、自ら考えることをやめることでもあります。

それでは何の解決にもならない。
私はそう思います。

考えるのをやめるのは、やめよう。自分への自戒の念も込めて。

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【私の音楽ライブラリー/第十二回】DEEP PURPLE/Perfect Strangers

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ゆでたまごのすけでございます。
名前が偉大であればあるほど、
それを超えることというのは、
難しいことなのだと
思わずにはいられないので
ございます。

DEEP PURPLEが80年代中盤に、
全盛期の第二期メンバーで再結成をしたのでございます。
その一枚目のアルバムが、この「Perfect Strangers」。
当時中学生だった私は、小学生の頃から憧れを持って聞いていたバンドが、
生では聞けないと思っていたバンドが、復活を遂げたことに、
心底から喜び、涙したことを思い出さずにいられません。

1. Knocking at Your Back Door
2. Under the Gun
3. Nobody's Home
4. Mean Streak
5. Perfect Strangers
6. Gypsy's Kiss
7. Wasted Sunsets
8. Hungry Daze
9. Not Responsible

アルバムリリース後のワールドツアーで、日本を訪れることを知り、
私はぴあの店頭に並んでチケットを取り、日本武道館まで足を運びました。
思えば、このライブが自分でチケットを買って行った初めてのライブでした。
会場で、腕を振り上げて、Gillanと一緒に熱唱していたのを思い出します。

何はともあれ、黄金期のDEEP PURPLEのメンバーで、
つくられたアルバムということだけで、私は満足でした。
改めて聞いてみると、ふつうにかっこいいと思えるのって、
私個人としては1曲目と3曲目、5曲目ぐらいなのですが、
その当時はとにかく、Gillanが歌い、Ritchieがギターを弾いてる、
JonがキーボードでPaiceが叩いてる、ってだけでよかったのです。
ぶっちゃけ、Rogerは私の中ではどうでもよかった(笑)。
まあRogerがプロデューサーだったりしますから、
バンドとしてどうでもいいわけはないんですけれども(汗)。

おそらく、彼らはこうして改めて集まって、
DEEP PURPLEというバンドとして自らが残したものに、
どうやって対抗していくか、という気持ちがあったのではないかと。
Highway Starを、Smoke On The Waterを、
どうやったら超えられるのか、と。
そういう意識はどこかしらあったのではないかと思います。
どうしても、名前が大きいものを背負うというのは、
そうならざるを得ないのでは…

【雑感】スナック大好き

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ゆでたまごのすけでございます。
昨日から、九州は小倉に来ております。
小倉駅前周辺は、なかなかの歓楽街。
ゆうべは仕事を依頼してきてくれた
営業担当の女の子たちに連れられて、
飲み歩いてしまいました。

何とも、懐かしい雰囲気のある街並みなのです。
昔の飲み屋街というのは、きっとこんなんだったんだろうな。
昔をそんなに知らない私でございますが、
なんとなくそんな気分にさせられたのでございます。

「ザ・スナック」とでも呼びたくなるような、
そんなお店を二軒目に選んでもらいました。
私はいつものように、カラオケ三昧でございましたが、
そこで同席されていた方々と仲良くなれるのが、
何とも私は楽しくてたまらないのでございます。
そして昨日は、ちょっと仕事の話になったりしまして。

ああ、こういうのって健全だな。

なんか数字がどうしたとか、マーケティングがどうしたとか、
そういう味気ないことばっかり言ってるのがバカバカしくなってくる、
そんな一夜を過ごした次第でございます。

やっぱり、スナック、いいですね。

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【私の音楽ライブラリー/第十一回】DEEP PURPLE/Come Taste the Band

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ゆでたまごのすけでございます。
最近、わかってもらえるとか、
もらえないとか、
そういうことに興味が引かれるので
ございます。
そしてそれは、
認める、認めない、
という次元で会話ができるのでは、
などと思っていたりするので
ございます。

今回取り上げるのは、DEEP PURPLEの第四期唯一のスタジオ録音盤、
「Come Taste the Band」でございます。
直訳すると、「このバンド、味わってみるぅ?」ってことでしょうか。

1. Comin' Home
2. Lady Luck
3. Gettin' Tighter
4. Dealer
5. I Need Love
6. Drifter
7. Love Child
8. This Time Around/Owed to 'G' [Instrumental]
9. You Keep on Moving

ちなみにメンバーは、
David Coverdale(Vo.)
Tommy Bohlin(G.)
Glenn Hughes(B.)
Jon Lord(Key.)
Ian Paice(Dr.)
でございます。
オリジナルメンバーは、とうとう二人になってしまった時期でございます。

結局、DEEP PURPLEという看板は予想以上に重かった、
ということではないのかなあ、と思ってしまうのでございます。
このアルバム、普通に聞くと普通にいいと思うのでございますが、
PURPLEファンがDEEP PURPLEとして聞いてしまうと、
何とも味気ないものに感じてしまうのではないかと。
ゆえに、評価も低かったのだろうなあ、と想像してしまうのでございます。

でもおそらく、この5人のメンバーで創り出すものとしては、
ベストのものとしてリリースしたんだろうなあ、と。
そしてそれは、わかってもらえなかった、ということなのでしょう。
これもPURPLE、と認めてもらえていれば、きっとこのアルバムを最後に
解散するということもなかったのかもしれませんし、
もっと言えばギターのTommyは亡くなるということもなかったかも。
「たら」「れば」の話は、どんな世界であろうとも、
後の祭りでどんひゃらら、なわけでございますが。

ただ、思うことは一つ。
今、ここにいる人たちで、やりたいと思ったことを、
しっかりとやり切ることが大事なんだ、と。
そんなことを教えてもらえた一枚だったのかな、と思ったりしております…

小説「味噌汁の味」(31)

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「はあい」浩輔と恵美子は、オフクロの呼ぶ声にすかさず反応して、家までを競争して走っていく。ほんとに無邪気だなあ、と思いながら、オレは改めて振り返る。ここ最近、子どもの姿をしっかりと見つめていなかったんだなあ、と。
 バケツの中の、井戸水を見つめる。この井戸は、オレのオヤジが小さい頃から、枯れずに今まで水を噴き出している。いつまでも、変わらずに。果たして、オレはどうなんだろうか。変わらずに水を噴き出せる力を、今でも持ち続けているのだろうか。
「裕輔、はよ来なさいよ。味噌汁、冷めてまうで」オフクロの声が、響いてくる。
「はいよ、今行くから」オレも大きな声で応える。久しぶりに、腹の底から声を出した気がした。
 食卓に来てみると、オヤジは元気にメシをかきこんでいた。メシと一緒に、味噌汁も。
「うまいで、味噌汁。あんたも食ってみやあ」
 オヤジに勧められて、オレも味噌汁をかきこんでみる。確かにうまい。
「ほんとに、聡美がつくったのか」オレはまじまじと、聡美の顔を見つめて言う。
「そうよ。そんなに信じられない?」
「いや、だって一日でつくれるようになるもんなのかなあ、って」
「おいしいよ、お母さん」恵美子も嬉しそうに笑いながら、聡美に声をかけてくる。「これなら毎日でも、食べられそう」
「そう? それならよかった」聡美も、ほんとうに嬉しそうだ。「でも、東京だと高いのよね、赤だしのお味噌」
「ほんなら、こっちから送ったげるがね」オフクロも、気分良さそうに提案する。「こっちだったら、安いもんだでね」
「そうですか? そうしていただけると、ありがたいですわ」
「そうだ、あれも教えてもらえよ。あの、とんかつにかける」
「ああ、味噌ソース?」
「何だね、味噌ソースって」
「あれだよ、ほら、味噌かつにかける、どろどろの」
「ああ、あんなもんなら簡単だがね。味噌にみりんと砂糖をたっぷり入れて、煮詰めるだけだでね」
「そのみりんと砂糖の加減が、今一つわからないんですよ」
「ほんなら教えてあげるがね」
 オフクロと聡美は、再び台所に向かって味噌ソースをつくり始めた。
「あいつも、ずいぶん楽しそうだわ」オヤジは口をもごもごさせながら、そう言った。「ちょっと張りが出てきたんだろな」
「そうですかね」オレももごもごさせながら、そう応えた。
「何時頃、出かけるんだね」
「そうですね、食事が終わって、少ししたら、ですかね」
「そうかね。そした…

【雑感】シネコンはいい

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ゆでたまごのすけでございます。

久しぶりに、映画館で映画を観てまいりました。
観てきたのは、「大日本人」と「バベル」でございました。
映画の感想なぞはまた書くとして、
何よりシネコンというのはいいな、と改めて思ったのでございます。

前々から、シネコンに一日いても飽きないだろうなあ、
などと思ってはおりましたが、それが確信に変わった次第でございます。
何がいいって、観たい映画がそこでほとんど観られちゃう。
時間さえ許せば、いくらでも観られるわけでございます。

まあ、うちの嫁が言っておりましたが、
昔は一度その映画館に入れば、気が済むまで何度も同じ映画を観られる、
という機微があった、でもシネコンにはそれがない、と。
確かにそれはそうだな、とは思いますが、
とりあえず観たい映画をずらりと観るには最適の施設ではあります。
ただ、昔のように「ぴあ」をひもといて、
自分が観たい映画はどこでやってて、何時から何時までここにいて、
次の映画館はこれだけ距離があるからこれぐらいなら行けそうだ、
とか考えるような風情がないのは、ちょっと寂しいかもしれません。

何でも、思った通りに用意されている。
そんな現代の象徴とも言える施設なのかもしれませんね。

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小説「味噌汁の味」(30)

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「お父さんは、もう起きてるんですか」
「ああ、もうとっくに。散歩に出かけなすったよ。年寄りの朝は、早いでねえ」
「そうですか。元気ですねえ」
「それだけがとりえだでねえ。ほれ、あんたも顔洗ってらっしゃい」オフクロは、いつまでもオフクロのようである。
 庭に出ると、浩輔と恵美子が井戸水で顔を洗っていた。
「ちょっと、もう少し静かに洗ってよ」
「何だよ、別に普通に洗ってるだけだろ」
「思い切りこっちに水がかかってるわよ。服が濡れちゃうでしょ」
「大丈夫だよ、少しぐらい」
「気をつけてよね、着替え、これしかないんだから」
「じゃあ脱いでおけばいいだろ」
「何言ってんのよ、スケベ!」
 ケンカしているようで、実はそうでもない。何となく、二人が小さい頃の姿が、オレの頭に浮かんできた。
「あ、お父さん。ちょっと来てよ。お兄ちゃん、わざと水かけてくるのよ」
「何だよ、言いつけんなよなあ」
「まあまあ、そうケンカするな」久しぶりにオレは、お父さんになった気分である。「それより、井戸水は冷たいだろ」
「うん、冷たい。気持ちいい」
「オヤジも汲んでやろうか」
「ああ、頼むよ」
 浩輔が、井戸の取っ手を上下して、水があふれてくる。その水を、オレは両手で受け止め、顔を洗う。わずかに口の中へ流れ込んでくる水の味が、今度はオレ自身の子どもの頃を思い出させてくれる。
「毎朝、この井戸水で顔を洗ってたなあ」
「へえ、そうなんだ」
「お父さんが子どもの頃?」
「そうそう。おまえたちぐらいになる頃まで、ずっと洗ってたよ」
「すげえなあ。じゃあこの井戸、オヤジが小さい頃からあるってことだよな?」
「ああ。もっと昔からあったらしいぞ」
「じいちゃんが小さい頃もあったのかな」
「あったみたいだぞ。ウチはずっと、ここに住んでるからな」
「じゃあ、親子三代が、この井戸水で顔を洗ったってことになるのね」
「ああ、そうだ。そういうことだ」
「なんか、嬉しい」
「うん、なんか」
「そうだな。父さんも、嬉しいよ」
 三人が変わりばんこにタオルで拭いていると、例によってデカいオフクロの声が響いてきた。
「ごはんだでー。じいさんも帰ってきたからー」(31へ続く)

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小説「味噌汁の味」(29)

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 一夜が明けた。
 朝、目が覚めると、横に寝ていたはずの聡美の姿はなかった。台所から、まな板をとん、とん、と鳴らす音が聞こえてくる。東京の自宅にいる時でも、同じように聞こえてきたような気はする。だけど何となく、いつもと違う音に聞こえてくるのは、寝起きした場所が違うから、という理由だけではないように思えた。
 顔を洗いに、洗面所へ向かう。実家のつくりは、洗面所に向かおうとしたら必ず台所を通ることになる。
「あら、おはよう」みし、みし、というオレの足音に気づいたようで、聡美はオレに声をかけてくる。
「ああ、おはよう」台所を振り返ると、聡美とオフクロが仲良さそうに、朝食の準備をしている。台所の横にある勝手口では、猫も一緒に朝食を取っていた。
「あれ、まだその猫いたの」オレが実家にいた頃も、確か同じ光景を見ていた記憶があった。
「そんなわけないがね。とっくの昔に死んだわ、あの猫ちゃんは」オフクロは相変わらず、朝から声がデカイ。「そうだわね、確かにいつも、どこかの猫が必ず家に入ってきとるわね」
「野良猫かな」
「たぶんそうだで。この猫で何匹目かね。名前もつけとらんのだけど」
 オフクロはいつも、家に入ってくる猫を、「猫、猫」と呼んでいた。確かオレが見ていた猫も、そうだったと思う。家に来る猫たちは、いつになっても、たとえその猫が違う猫になったとしても、「猫、猫」と呼ばれ続けるのだろう。
「おはよう」「おはよう」浩輔と恵美子も、起きてきた。「なんかいいにおい」
「今日はね、朝のお味噌汁、赤だしよ」聡美は得意そうに、子どもたちに笑いかける。「お父さんがいつも食べたがってた、赤だしのお味噌汁。昨夜つくってみて、お父様にもお母様にもお墨付きをいただいたのよ」
「へえ、そうなんだ」浩輔が珍しそうにお椀を覗き込み、その勢いで味噌汁をすすり出した。「あ、うめえ」
「いじきたないぞ、おまえ」オレは浩輔の後ろ頭を、いつものようにひっぱたく。「顔を洗ってからにしろ」
「いてえなあ、わかったよもう」
「そうだ、庭の井戸水で、顔洗うとええわ」
「え、井戸なんて、あるんですか」恵美子は小さい子どものように、嬉しそうな表情で振り返る。
「田舎だでねえ。でも東京にはあれへんでしょ、井戸なんて」
 浩輔と恵美子は、われ先にと庭へ駆け出していった。田舎の生活も、悪くないかもしれない。そんな気持ちが、ふと、オレの頭の中に浮かんできた…