小説「味噌汁の味」(28)

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「おお、味噌汁か」オヤジは嬉しそうに、聡美からお椀を受け取る。「あんたがつくったんかね」
「ええ、お母様に教わりながら」聡美も嬉しそうだ。「おいしいかどうか、わからないですけど」
「どれどれ」オヤジはさっそく、味噌汁をすする。「うまいがね。ほれ、あんたも食べなされ」
「あ、はい」オレも聡美から、お椀を受け取る。
「前につくった時よりは、おいしいと思うけど」聡美は少し伏せ目がちに、オレにお椀を渡す。
「うん、ありがとう」
 聡美がつくった赤だしの味噌汁を飲むのは、いつ以来だろうか。確か、結婚してすぐの頃は、聡美も気を使ってつくってくれたような気がする。しかし正直なところ、あまりうまくはなかった。直接そんな表現をしたわけではないのだが、聡美は敏感にオレの反応を感じていたようである。だからちょっと、自信なさげなんだろう。
 オレも味噌汁をすすってみる。うまい。これはまさに、名古屋に住んでいた頃に食べた、味噌汁だった。
「うん、うまい」
「ほんとに?」
「ほんとだよ。お世辞抜きに、うまい」
 聡美は安堵の表情を浮かべ、ほっとした様子だ。
「どうかね、聡美さんのお味噌汁は」やはり豪快な大声で現れたのは、オフクロだ。「お出汁にちゃんとにぼしを使うと、コクが出てくるんだわ。それを聡美さんに教えてあげたんだわ」
「ちょっとしたことなんだけど、やっぱり手間をかけてあげれば、味が違うんですね」聡美は心から感心したように言う。「私も自分で味見したけど、これなら私もおいしいと思ったもの」
「うん、うまい。うまいよ」オレは他に言葉が見つからなかった。
 やっと、名古屋が近づいた。オレの頭の中には、そんな思いが噴き上がってきていた。(29へ続く)

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