小説「味噌汁の味」(21)

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 客間で、オヤジの帰りを待つ。
 家がデカければ、客間もやたらにデカい。そしてその客間に置かれた来客用のちゃぶ台も、これまたデカい。家族四人が同じ方向を向いていても、幅は全然余裕がある。不思議と四人は、言葉もなく正座して座っている。まだ見ぬオヤジの帰りを待っているのだから、浩輔や恵美子は緊張している。ただでさえ緊張している俺も、さらに緊張を増してくる。
 縁側からは、日差しが薄く入り込む。夕方になると、西日が差してきて暑くなるんだっけ。古い記憶が、俺の頭にどんどんと甦ってくる。
「あれって、縁側って言うんだろ」浩輔が俺に小声で話しかけてくる。
「ああ、そうだ」何を当たり前のことを、と思いながらはっと気づいた。「そうか、おまえ、縁側なんて見たことないのか」
「そりゃそうだよ。ずっとマンションだったんだから、当然だろ」
「あそこでよく、オヤジが近所の人と将棋をしてたもんだ。それを眺めながら、庭で弟たちと花火をしてた」
「いいですねえ、風情があって」聡美は俺の話に、感心したように相づちを打つ。
「ねえ、弟さんたちって、どうしてるの」恵美子が聞いてくる。
「みんな独立しちゃって、バラバラだよ」そういえば、弟たちとも何年も会っていない。「みんなが集まったら、結構にぎやかになるだろうなあ」
「集まってみたら、どうですか」気軽に話す聡美に、俺は苦い顔で振り返る。
「そりゃ無理だよ」
「どうしてです」
「みんな俺のことを良く思ってないよ」俺は大きなため息をつきながら言う。「長男の俺が一番最初に家を出ちゃったんだからな」
「もう何十年も前の話じゃないですか」聡美は優しく笑っている。「きっともう、大丈夫ですよ」
「そうかなあ」
 がらがらがら。玄関の引き戸が開く音がした。
「ただいまあ」オヤジの声だ。昔より、張りはない。
「お帰りなさい。裕輔、来てますよ」
 家族四人に、改めて緊張が走る。つばを飲む音が、聞こえてきそうな静けさだ。
「おう、きとったんか」オヤジは努めて、平静を装いながら客間に姿を現した。
 その姿は、思った以上に小さくなっていた。(22へ続く)

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