小説「味噌汁の味」(36)

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 普通電車は、各駅に止まる。
 次々と、駅に止まっていく。どの駅名も、覚えがある名前ばかりだ。だけど駅前の風景は、どこも変わってしまっている。駅の看板も、当時は筆で書いたようなものだったのが、内側から蛍光灯で明るく見せるものに変わっている。
 恵美子と浩輔は、まるで子どもに帰ったように、窓の外を珍しそうに眺めている。  勇作は、もういないんだ。
 勇作の家のある駅に近づくにしたがって、だんだんその思いがリアルになってくる。
「よし、ここだ。着いたぞ。降りるぞ」オレは家族を促した。
「え、ここなの?」恵美子は驚いたように、慌てて荷物をかつぎ出した。「だったら早く言ってよねー」
「あれ、言ってなかったっけ」
「言ってなかったですよ」聡美も慌ててホームに降り立って言う。
 そうか、そんなにオレは考え込んでいたんだ。
「いや、すまんすまん。すっかりここで降りるって、言ってあったと思ったよ」
「頼むぜ、オヤジ」閉まるドアに挟まりそうになった浩輔は、真剣に言っていた。
「ああ、悪い悪い」
 勇作の家を訪ねるのは、数年ぶりになるだろうか。駅前のタクシー乗り場も、ずいぶんきれいになっていた。
 運転手さんに頼んでトランクを開けてもらい、家族四人分の荷物を積み込んでいく。
「ご親戚のとこに、行かれるんですかね」車を発車させながら、運転手さんはオレたちに話しかけてくる。
「いや、大学時代からの友人の家に、訪ねていくところです」助手席に乗った俺は、質問に答える。「つい最近、亡くなったんですがね」
「ああ、そうですかね」運転手さんはそう言いながら、少し考えるように言った。「もしかしてその方、高杉勇作さんじゃないですかね」
「えっ、ご存知なんですか」
「ああ、知っとりますがね。ずいぶん盛大なお葬式でしたよ。ウチのタクシーをたくさん使っていただきましてねえ、参列された方たちの、お迎えとかお見送りで」(37へ続く)

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