小説「味噌汁の味」(40)

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「驚いちゃいますよね」奥さんは、エプロンで自分の笑いを隠しながら言う。「聞きましたよ、結婚相談所への登録、裕輔さんがお薦めになったんですよね」
「ああ、はい。そうです」
 間違いなかった。何年か前、そう、あれは勇作がオレたち家族との旅行に行かなくなってから何年かした時のことだ。仕事が忙しいから、となかなか結婚しようとしない勇作に、オレが言ったのだ。
「もういい年なんだから、結婚したらどうだ。家族を持つと、仕事の張りも全然違うぞ」
 そんなことを言いながら、おまえが言うな、と心の中で自分に突っ込みを入れていた覚えがある。自分の仕事ぶりを振り返ってみて、「家族がいるから」とがんばった瞬間が、どれぐらいあったというのか。自嘲気味な気分で、勇作には冗談めかして言ったつもりだった。
「したくても、相手がいないから」と答えた勇作に、「相手がいないなら、結婚相談所に登録してみろよ」とオレは言った。本気で勇作を心配しているのだったら、オレが紹介してやる、と言っていたかもしれない。オレは勇作には結婚する気がない、と思い込んでいたし、もし本気で心配していたとしても、オレには勇作に紹介できる独身女性の知人は皆無に等しかった。
 いや、それも言い訳にすぎないような、気もする。勇作の人生が、自分のせいで変わっていくことに、責任を持ちたくなかったのかもしれない。
「あなた、そんなこと言ったの」聡美が、意外そうにオレに聞く。「珍しく、気のきいたことを言ったのね」
「え、そうか」聡美の言葉の方が、オレには意外だった。
「だって、こんないい奥さんを紹介していただいたんでしょ、その相談所に」
「いい妻かどうかは、わかりませんよ」奥さんは、また申し訳なさそうに言う。「だって私、バツイチですもの」(41へ続く)

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