小説「味噌汁の味」(39)

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 オレは、不義理なヤツだ。
 つくづく、そう思う。勇作には、たくさんの知人・友人がいる。そういえば、遅ればせながらの結婚式も、何百人という出席者がいた。どこからこんなに人が集まってくるんだろう、と思った覚えがある。来賓の挨拶だけで、賞味三時間。披露宴の所要時間は、合計六時間。奥さんもよく承知したもんだ、こんな名古屋流ベタベタの結婚式を、とも思った。そんな周りが勝手に盛り上がる喧騒を、勇作も、そして奥さんも、笑顔で眺めていた。心から、楽しんでいる様子だったのだ。
 もしかしたら、勇作の葬式に行こうとしなかったのも、実は勇作に嫉妬心を感じていたからではあるまいか。そんな思いが、オレの頭の中をよぎった。
「本当に遠いところ、ありがとうございます」奥さんは、しずしずとちゃぶ台にお茶を並べてくれる。
「そんな、お気を使わずに」
「いえいえ、大したおもてなしもできなくて、申し訳ありません」
 通り一遍の受け答えをして、会話がなくなる。オレの気持ちを知ってか知らずか、聡美も浩輔も恵美子も、出されたお茶をおいしそうに音をたてながら飲んでいる。
「結局、お子さんはつくらずじまい、ですか」いきなりだが、オレは奥さんに聞いてみたかったことを口にした。
「ええ、そうですね。残念ながら」優しい笑みを浮かべながら、奥さんはオレの不躾な質問に答えてくれる。「でも、こんなに大きなおうちを残してくれましたから」
「勇作とは、どこでお知りあいになったんですか」
「お聞きになりたいですか」奥さんは含み笑いをしながら、オレをいたずらっぽい目で見つめる。「結婚相談所なんですよ」
「えっ」オレは思わず、息を飲んでしまった。(40へ続く)

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