小説「味噌汁の味」(37)

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「そんなに、盛大だったんですか」オレは思わず、率直に運転手さんに聞いてみた。
「ええ、ええ。それはもう、どえらい盛大だったでね」運転手さんは思い出しながら、言った。「ずいぶん、たくさんの人が集まられたみたいですよ。はっきり覚えとりますわ」
「へえ、勇作おじさん、有名人なんだ」浩輔は感心したように、言った。
「オレだったら、そうはいかないだろうなあ」オレは心に思ったことが、知らぬ間に口から出ていた。
「縁起でもないこと、言わないで下さいよ」聡美はオレをひじでつつきながら、言った。
「ああ、すまんすまん」
 確かに勇作は、敵をつくらない男だった。
 学生の頃、そんな勇作の態度が鼻について仕方なかった時があった。誰にでも好かれるように振る舞っている、という印象を受けたのだ。その時オレは、はっきり勇作に言った覚えがある。でも勇作は、そんなことはないよ、と繰り返すばかりだった。
 本当にそんなことはないんだ、と気づいたのはオレと聡美の結婚を心の底から喜んでくれた時だった。
「だけど、勇作さんらしいわね」聡美は感慨深げだった。
「ああ、そうだな」オレも当時を思い出しながら、聡美に同意した。「あいつらしいよ」
ほどなく、タクシーは勇作の家に着いた。
 勇作の家も、オレの実家に負けず劣らず、デカかった。勇作は、長男だった。結婚して、そのまま親の持ち物だった家を、相続したのだ。
「ごめんください」オレは玄関の引き戸を開けて、中に声をかけてみた。
「ああ、いらっしゃいませ」勇作の奥さんは、エプロン姿のままオレたちを出迎えてくれた。「遠いところを、わざわざすいません」
「ごぶさたしております」オレは少し白髪の増えた勇作の奥さんを見て、言葉を失ってしまった。「本当に、ごぶさたしております」(38へ続く)

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