小説「味噌汁の味」(34)

33へ続く)

 オレの兄弟は、弟が二人に、妹が三人だ。
 二人の弟は、オレがこの家を出ていった後、やはり東京の大学に入学して、家を出ていった。そのまま東京で就職し、結婚した。
 三人の妹のうち、二人はやはり同じように東京へ行って、そのまま結婚した。一人は、名古屋で結婚して、生活している。
 しかし、ここ十数年のうちに兄弟が全員顔を揃えたことは、ほとんどなかった。最後に会ったのは、オヤジの定年退職祝いで集まった時ぐらいだった。
 そういえばその時も、この家の話になっていた。
 オヤジとオフクロが席をはずした時、一番上の妹が口火を切って話していた。
「ウチは東京だし、お父さんとお母さんの面倒は見られないわよ。この家だって、別にいらないわ。相続税とかかかるだろうし、だいたい管理なんてできゃしないし。そうだ、静香がもらえばいいのよ」
 静香というのは、一番下の妹である。末っ子ということで、オヤジとオフクロからは可愛がられもしていたが、ほとんどしゃべらない無口な娘だった。その時も、姉から話を振られて苦笑いをしながら、
「そんな、まだ先のことだから」
と、答えていたのを覚えている。
 一度、兄弟みんなで集まる機会を設けなくてはなるまい。
「お父さん、お父さんってば」
「ん? 何だ?」
「何だ、じゃないわよ。さっきから話しかけてるのに、無視しちゃってさ」
 実家を出て、駅まで向かうタクシーの中、オレはずっとボーッとしていたようで、恵美子が話しかける声すら聞こえてこなかったようだ。
「いや、無視なんかしてないよ」
「お父さん、おかしいよ。おじいちゃんちから出てきてから」
「ああ、そうか。そうかなあ」
「どうかしたのかよ、オヤジ」口は相変わらず悪いが、浩輔も心配そうだ。
「お父さんはね、ちょっと考え事してたのよ」聡美がうまく、助け舟を入れてくれる。
「何よ、考え事って」
「なあ、浩輔、恵美子」オレは思い切って、話してみようと思った。「オレが死んだら、悲しいか」(35へ続く)

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