小説「味噌汁の味」(43)

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「これ、浩輔くんが描いたものだって、勇作さんから聞いていたんです」
「うん、うん」浩輔は、奥さんが持ってきた絵を渡されて、さらに輪をかけて涙があふれてくるのを止められない様子だった。
「あの人、この絵を見るたびに言ってましたよ。『これは、浩輔くんが描いてくれたんだ。よく似てるだろ』って。何度も、何度も」
 オレの頭の中にも、当時の記憶が甦ってきた。
 浩輔や恵美子と、勇作は旅行のたびに遊んでいた。海に行った時は、一緒になって砂山をつくって、はしゃいでいた。キャンプの時は、いつでも花火に火をつけるのはあいつの役目だった。温泉に行った時も、広い風呂で三人で一緒に泳いで怒られていた。そんな姿を見て、どうして勇作はあんなに子どものようにはしゃげるのだろう、と呆れたように、いや、実はうらやましくて仕方ない気持ちで、オレはいた。
 そんなにオレのことが、うらやましかったのか、勇作よ。
「……ありがとうございます」オレは、うまい言葉が思いつかず、振り絞るように奥さんに言った。「大事にします。勇作だと思って」
「はい、こちらこそ」奥さんは、床に頭がつくぐらいに低くお辞儀をしてくれた。
「よしてください、奥様。お礼を言うのは、こっちの方ですから」聡美は、奥さんの体を起こしながら言った。「これからも、おつきあいしていただけます?」
「ありがとうございます」
「そうだ、よかったら今度、家族旅行に一緒に行きませんか?」聡美は努めて明るく言った。「大勢の方が、きっと楽しいですから」
「よろしいんですか」
「もちろんですよ」オレも涙を拭いながら、奥さんに行った。「まだ、予定はないんですけどね」
「いいじゃないの、近いうちに予定をつくれば」
「ああ、そうだな」
「私も行きたい」恵美子も笑顔で、そう言った。
 浩輔は、しゃくりあげるのがまだおさまらず、ひたすら首を縦に振っていた。
「よし、じゃあ、帰ったらまた、予定を立てよう」
 また、毎年家族旅行に行けるようにしよう。オレは心に誓った。(44に続く)

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