小説「味噌汁の味」(1)

 喪中のはがきが届いた。
 勇作が死んだという知らせだった。奴と俺とは小学校時代からのつきあいだから、もう40年である。享年51歳。あまりにも、若すぎる。最後に会ったのは、いつだったろうか。確か2年ほど前、勇作が家族とともに故郷の名古屋へ帰るから、そのお別れ会と称して小学校の同級生たちと年がいもなく朝まで飲んで以来だ。その時も、1年ぶりぐらいの再会だった。そんなに時間が経っていたのか、とお互いに驚き合っていたことを思い出す。いつでも会えると思っていた。それが、暮れに差し迫ったこの時期に、いきなり喪中のはがきで勇作の死を知ることになるとは、夢にも思わなかった。
「おい、勇作が死んだんだと」
「え、そうなの」妻の聡美は、アイロンをかける手を休ませることなく、応えた。 「あいつ、何で連絡一つよこさないんだ」
「死んだ人が『死んだよ』なんて、連絡してくるわけないでしょう」
「ああ、そうか。そうだよな」
「奥さんも大変だったんでしょう。お友達への連絡は、後回しになっちゃったんじゃないの」そう言いながら、聡美はアイロンをかけ終えたワイシャツを几帳面に折り畳んでいる。
「線香の一つでも、あげにいかないとなあ」
「行けるんですか、この年末に。先方も迷惑じゃないんですか」
 そういえば、名古屋に行ったことは、この40年の間に何度あっただろうか。仕事で訪ねたことはあったものの、少なくとも22歳で結婚して、子供ができて、家族で訪ねたことは一度もない。そもそも年一回は家族旅行をしよう、と言いながら、そんな約束もおぼつかないままここまで来てしまったような気がする。いつの間にか子供たちも、もう大学生と高校生だ。
「なあ、みんなで行かないか」
「どこへです」
「名古屋だよ」
「無理ですよ、子供たちは学校もあるし」
「いや、行こう。家族みんなで、名古屋に行こう。もう決めた。絶対行くぞ」(2へ続く)

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