小説「味噌汁の味」(17)

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「いろんなことがあったよ」俺は窓の外を眺めながら、ため息まじりに言った。「そういえば、案外歓迎されなかったよな、俺たち」
 富士山は、いつの間にかもう見えなくなっていた。あたりはこれぞ田園風景、といった具合に田んぼや畑が広がっている。地方に行くとつくづく思うのだが、都心とは時間の流れ方が違っている。明らかに地方の方が、スピードがゆるやかだ。だけどそこに住む人たちにとっては、そのスピードがごく自然なものになっている。この田園風景に住まう人たちも、きっと俺とは違う時間の流れ方がしているのだろう。そう思うと、本当に不思議だ。などと回想している間、聡美も浩輔も恵美子も、じっと俺の方を見つめていたことに気がついた。
「な、なんだよ」
「……別に」浩輔は相変わらず、素っ気ないそぶりをする。
「なあんかね」恵美子は意味ありげな、含み笑いをしてみせる。
「そうでしたよね。何だか歓迎されなかったですもんね」聡美は当時を思い出しているのか、少し遠くを見るような目で語る。
「そうだ、おまえたち、勇作おじさんのこと、覚えてるか」
「覚えてるよ。よくお年玉くれたから」
「まったく浩輔ってヤツは」俺は呆れたように、ため息をつく。
「私、覚えてるよ。よく旅行とか、一緒に行ってくれてたよね」
「そうそう。まだあいつに子どもができないうちは、な」
「そういえば、そうでしたね。いつ頃からでしたっけ、勇作さんが一緒に旅行行かなくなったのって」
「もう十五年ぐらい前じゃないか。子どもできるの、遅かったからなあ」
「おじさん、もう一回会いたかったな」
「あいつがいなかったら、俺と聡美は結婚できなかったかもしれないんだぞ」
 浩輔と恵美子は、俺の言葉に反応して顔を上げた。
「そうですよね。お友達の間でも、結婚に賛成してたのは勇作さんだけでしたもんね」
「えー、どうして?」不可解だ、と言わんばかりに恵美子は俺と聡美に詰め寄るように言った。
 チャイムがなり、車内アナウンスが流れた。もうすぐ名古屋駅に着くようだ。(18へ続く)

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