小説「味噌汁の味」(13)

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 どうにか、東京駅に無事到着した。
 勇作のご遺族にお届けする、みやげ物も買った。東京名物「雷おこし」。最近は「ひよ子」が定番らしいが、われわれの世代にはなじまない。やはり東京みやげと言えば、「雷おこし」だろう。もらってうれしいのだろうか、食べておいしいのだろうか、という疑問はいつも感じているのだが、持っていけばとりあえず喜ばれる。だったら迷うことはあるまい。
 慌てていたわりには、ずいぶんと余裕を持って駅に着いた。乗車するはずの新幹線は、まだホームにすら入ってきていないぐらいだった。普段だったらこんなに余裕を持って新幹線に乗ることはないのだが、それは単身出張をしたりする場合だからである。今回は何と言っても、家族旅行。団体行動をする以上は、少しぐらい余裕を持っておいた方がいい。何しろ家族旅行は何年かぶり、妻の聡美に至っては旅行そのものが十数年ぶりである。旅に慣れていないという緊張感は、新幹線に乗り慣れている俺の平常心すら奪っていた。
 新幹線の待合室で、家族四人が電車の到着を待つ。現在、午前八時。電車は午前九時出発である。まだ一時間もある。朝食を取ってきたというのに、聡美と恵美子は駅の売店で買ってきた珍しいお菓子をほおばっている。浩輔は浩輔で、駅弁が珍しいらしく、ますのすしをかきこんでいる。しかしこんなにゆっくりと家族との時間を取るのは、何年ぶりだろう。そんな家族の姿に、ほっとする。
 改めて待合室を眺めてみると、昔に比べてずいぶんと洗練されたような気がする。電車の到着状況を知らせるモニター画面はもちろんだが、何しろ煙たくない。待合室自体が禁煙になっているのだ。これならゆっくり待とうという気にもなる。
「まもなく16番線に、九時ちょうど発、ひかり○○○号、新大阪行電車が到着します……」
いよいよ、私たちが乗る電車が到着するらしい。指定席だから別に焦ることはないのだが、家族はみんないろいろと広げていたものをあたふたと片付けはじめ、ホームに上がる準備を始める。まわりを眺めてみると、土曜日だというのに意外とスーツ姿のサラリーマンが多い。ビジネスユースで新幹線を使う人たちの方が、観光目的の人たちよりも多い気がする。ご苦労様である。普段、自分が出張で新幹線に乗車する時、明らかに観光だろうというじいさんばあさんの一団が自由席を占拠して、自分は立ったまま新大阪まで、ということもあった。「ちくしょう」と思ったものである。だけど今日は、反対の立場である。指定席にしておいて、よかった。ほっと胸をなでおろす。
 車両に乗り込むと、俺たち四人の席は二人がけの席の前後ろになっていた。片方の座席を回転させ、向かい合わせにして腰かける。ふとまわりを見てみると、いかつい顔をしたスーツ姿のおっさんたちが、新聞を広げて座っている。すんません、こっちは家族旅行です。そんなふうに思いながら、肩身が狭い思いをしている俺をよそに、家族四人はきゃっ、きゃっ、とはしゃいでいる。なんで俺ばっかり。仕事人間という実感を、改めてしてしまった。(14へ続く)

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