小説「味噌汁の味」(19)

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「そういえばさ、俺、じいちゃんとばあちゃんに会うの、初めてだよ」浩輔が言う。「だいたい今までさ、じいちゃんとばあちゃんの話するのって、なんかタブーみたいになってたじゃん」
 確かに、浩輔の言う通りだった。俺たちのことは、未だに俺の両親は認めていない。子どもたちにはずっと、俺の両親はもうすでにこの世にいない、と言い続けていた。祖父母がまだ存命だということを彼らに打ち明けたのは、浩輔が高校生、恵美子が中学生になってからの話だった。
「まあ、な」あまりにはっきりと浩輔に言われて、俺はなんだかばつが悪い。
「失礼な言い方、しないでちょうだいよ」聡美は浩輔を諭すように言う。
「そうよ、お兄ちゃんはいつも一言多いんだから」
「うるせえなあ、わかってるよ」
 俺のオヤジとオフクロが住むのは、名古屋駅から名鉄線に乗り換えて、特急で15分ほどのところである。新幹線での乗車時間を合わせても、2時間に満たない。それなのに、ここまでの道のりは遠かった。
 今でも、遠く感じていることには違いない。出かける前に、電話を一本入れておいた。オヤジは俺の言葉に、一言も返してはこなかった。それが何を意味しているかは、わからない。だから、行ってみるだけだ。
「なあ、オヤジ」名鉄線の特急電車の中、浩輔は俺に声をかける。「ほんとは怖いんじゃないの」
「何が」
「じいちゃんとばあちゃんに、会うの」
「……ああ、怖いよ」俺は正直に答える。「でも、大丈夫だ」
「ほんとに?」
「ああ。一人じゃないからな」
 この年になって、自分の親に会うのを恐れているなんて、かっこ悪いと思う。親はいつになっても親だ。だけど、いくら両親が反対していたと言っても、聡美がいて、浩輔がいて、恵美子がいることは、もう誰も否定できない事実だ。家族がいることが、こんなに頼もしいと思ったのは、初めてかもしれない。
 電車が、目的の駅に到着する。数十年ぶりに訪ねた駅の周辺は、当時の面影はほとんどない。俺は、大きく深呼吸をする。タクシーに乗って5分もすれば、俺の実家だ。(20へ続く)

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