小説「味噌汁の味」(14)

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 いよいよ出発である。俺たち家族を乗せた新幹線は、一路ノンストップで名古屋へ向かう。名古屋駅まで、約一時間半。俺は昨日までの疲れを少しでも癒そうと、寝に入ろうとする。
「お父さん、寝ちゃうの?」恵美子のブーイングが聞こえてくる。
「そうですよ。トランプでもやろうと思ったのに」聡美も同調する。
「しょうがないんじゃん、オヤジ、疲れてるんだろうから」浩輔の、フォローとも軽蔑とも聞こえるコメントが耳に痛い。
「わかったよ。やりましょう、トランプ」そこまで言われちゃ、俺も黙って寝ているわけにもいくまい。
「別にいいよ、無理しなくても」やはり浩輔は、軽蔑しているようだ。
「何だ、無理なんてしてないぞ」大人げないが、俺も意地になっている。
「何にする。七並べ?」一番うきうきしているのが、聡美である。
「七並べなんて、できるわけないだろう。どこに並べるんだよ」もっともな突っ込みを入れたのは、俺である。
「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか」こちらも大人げなく、すねる聡美である。
「じゃあババ抜きしよう、ババ抜き」恵美子はいたって無邪気である。
「ババ抜きなら、母ちゃん抜きってことか」浩輔はどうしてここまで口が悪いのか。誰に似たんだ、と思って自分をふと振り返ってしまう。
「私はまだ、ババじゃありませんよ」聡美が半分本気で怒っているのは、俺にはわかる。
「おまえ、お母さんにババはないだろう」威厳を保とうとするのがありありとわかってしまう、俺の説得力のないフォロー。
「オヤジだって、そう思ってんじゃないの」ほんとに可愛げのない息子に育ったもんだ、浩輔のヤツは。
「何言ってるんだ」俺は浩輔の頭を、思わずひっぱたく。
「いてーじゃねえかよ」カードを配る手を止めて、浩輔は俺に立ち向かってくる。
「やめなさいよ、新幹線の中で」兄よりも大人っぽい、恵美子である。「そんなこと、思ってるはずないじゃん。ねえ?」
「あ、ああ。そりゃそうだ」何故だかちょっと恥ずかしくなってしまった、俺である。
「何照れてんだよ、年考えろよ」やっぱり浩輔の口の悪さは、俺に似たんだろう。
「ちょっと聞いてみたいことがあるんだけど」配られたカードを口元にあてて、恵美子は俺と聡美をのぞきこむ。「お父さんとお母さんって、どうして結婚したの」
 ぐっ。俺は言葉に詰まってしまう。そんな俺を見て聡美が吹き出すもんだから、なおさら俺は恥ずかしくなってしまう。新幹線はまだ、新横浜を過ぎるくらいだ。語る時間が山ほどあるこの状況が、俺はうらめしかった。(15へ続く)

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