小説「味噌汁の味」(11)

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 二週間なんて、あっという間だ。
 直前の一週間は、自分でも驚くぐらいに段取りよく働いた。土日に仕事を持ち込まないように、とがんばっていたら、ほんとに金曜日までで大方の仕事にメドがついた。やってみればできるもんである。つまり普段は、怠けているということだ。
 同僚や部下、それに上司にも正直に話をしたら、快く承諾してくれた。俺に気を使ってくれているのか、いつもなら俺が解決していくような案件も、部下や同僚が「任せておいて」と言ってくれた。まわりがこんなにも温かく感じたのは、入社以来初めてかもしれない。
 聡美は聡美で、気の早いことに木曜あたりから旅の準備を始めていた。
「どう、これは似合うかしら」
 少し早めに帰ってきた金曜日には、明日早朝から出発だから早く寝ればいいのに、俺を観客にファッションショーを始めた。こんなにニコニコと嬉しそうに、自分の服を選ぶ聡美の姿を見ていると、ほのかに新婚の頃のことを思い出して、ちょっと恥ずかしかった。
 水曜には仕事の合間をぬって、恵美子の試合を観戦しに行った。恵美子は、腕にキャプテンマークをつけていた。チームの仲間に激しい檄を飛ばしている姿を見て、娘の成長を改めて実感する。恥ずかしながら、少し涙ぐんでしまった。相手は強豪チーム。「勝てるわけがない」と恵美子は言っていたが、なかなかどうして、フルセットにまでもつれこむ接戦になっていた。しかしこの試合で勝ってしまうと、次の試合が土曜になるという。ここまできたら、勝ってほしいと思う気持ちと、もし勝ってしまったら、土日の家族旅行はパーになる、という思いとが交錯して、複雑な心境だった。結果としては、最終セットを取られて敗退。チームの仲間と涙する恵美子を見ながら、ちょっとでも「負けたらいいのに」と思った自分が恥ずかしくなる。
「別にいいよ、それとこれとは別だから。これで家族旅行、楽しめるね」その夜の食卓で、正直な気持ちを話した俺を、恵美子はフォローしてくれた。娘の方が大人じゃないか。またまた俺は、恥ずかしくなってしまった。
 金曜の夜、一向に帰る気配のなかったのが、浩輔である。大学のサークル仲間との飲み会だと言っていたが、土曜のことを念を押す俺に「大丈夫、早く帰るから」とも言っていた。聡美も恵美子も寝静まってから、それでも浩輔のことが気がかりで俺は寝られずにいた。午前0時を回ったあたりで、玄関の鍵が開く音がした。
「明日は7時起きだぞ。大丈夫なのか」
「大丈夫だよ。ちゃんと起きるから」
 玄関を上がる浩輔の姿をよく見ると、スーツ姿だった。その手には、よく見るメーカーのロゴが入った袋が下げられていた。
「サークルの飲み会じゃなかったのか」
「うん、OB訪問だったんだよ。先輩、しつこくってさ」
 そうか、就職活動だったのか。
 気がつけば、息子も娘も成長している。俺はどうなんだ。さらに恥ずかしい気持ちになって、俺はそのままふとんにもぐりこんでいた。(12へ続く)

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