【読書ノート】濹東綺譚/永井荷風


ゆでたまごのすけでございます。

ちょっと前から気になっておりました、
永井荷風さん。
ようやっと、読むことができました。

以前、本八幡の街を取材していて、
永井荷風さんに縁のあるそば屋さんを
取材する機会がございました。
その時にもらった資料の中で、
荷風さんの足跡などを見ていますと、
何ともシンパシーを感じさせてくれる
人だなあ、と印象に残ったので
ございます。

今風に言うなら、ダメな人でございます。
今風でもないですね(笑)。
何度も結婚と離婚を繰り返し、
それでいて花柳界に足を突っ込み、
遊女や芸者との浮き名を轟かせる。
巻末の略歴と解説を拝見しますと、
女性不信に陥って最期は独居で迎えた、
というのも、お気持ちお察しします、
という感じですし、
ずっと女性という存在に夢を描いていたのだろうなあ、
などと共感してしまうわけでございます。

主人公の作家が、自作の小説を書くために、
隅田川の東側にある「濹東」なる地域へ
足を運び、遊女お雪と出会い、別れるまでを
描いた作品でございます。

一言で説明するなら、それだけの作品でございます。
ただただ、素性もわからぬ女に対して思いを寄せ、
素性もわからぬままに出会い、別れる。
ただそれだけの話。
それを「綺譚」と銘打つあたりが、
さすがというところではございます。

時代背景が、日華事変の前夜ということもあり、
この作品がそんな時代の中で新聞に連載され、
好評を得たというのも、なんかわかる気がします。

ただそれだけの話なのに、
なぜそこまで好評を得たのかと思うに、
ここに描かれる東京の下町の街並みと空気感。
季節の移ろいに伴って描かれる花の描写。
蚊が飛んだり、お雪の髷の種類が変わったり、
そんな描写の背景に、主人公やお雪の心持ちが、
こんな風に変化していったんだ、
というのを裏読みさせようとする、
ともすれば小津安二郎監督の映画の世界のような、
行間の豊かな表現が、読む人の心をつかむのでございましょう。

小説とは、こういうもの。
描写とは、こうあるべき。
そんな啓示を、与えてくれるような作品でございました。

先日読了しました「苦役列車」の西村賢太さんと、
どこか相通ずるものを感じるとともに、
それは私にも相通ずるものがある、
と思わされる作家・永井荷風さん。
ちょっと、さらに奥深く調べたり、
読み込んだりしてみたい、と思った次第でございます。

東京スカイツリーでも、見に行って来ようかな。

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